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横浜地方裁判所横須賀支部 昭和42年(ワ)2号 判決 1970年2月06日

原告 金子ハル 外五名

被告 国

訴訟代理人 大道友彦 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

まず本件土地が原告主張のように原告所有の無番地の土地であるかどうかにつき判断する。

<証拠省略>を総合すれば、横浜地方法務局三崎出張所備付けの土地台帳付属地図(いわゆる公図)には、本件土地部分に囲まれて六百八十六番と記載された区画があり、右記載は約半分位六百八十六番の区画から本件土地部分にはみ出して記載されているが、極力その記載を右区画内におさめようとして字が小さく書かれていること、右公図上六百八十七番の記載は実線で区分された三つの区画の上に安定された形で記載され、本件土地部分の区画は右六百八十七番の記載と飛び離れ、右三つの区画とは実線で区分されていることが認められる。被告らは、右実線は昭和三十三年十二月以降において何人かにより勝手に記入されたものであると主張するが、これを認める証拠はない。しかして地券制度が土地台帳制度に改められ、土地台帳が当初は地租賦課のため府県において保管され、更にその後税務署に引き継がれ、最終的に法務局に移管されたことから考察し、法務局備付けの公図が公図の原本というべく、前記認定の如き公図原本上の記載からは、本件土地は六百八十七番の土地の一部に該当せず、無番地の土地に該当するものと認めるのを相当とする。検証の結果によれば、三浦市役所備付けの地図の内最も古いものには右の実線が記載されていたが、これがナイフ様のもので削り取られた痕跡があり、しかして右実線の消除方法は通常行なわれない異常な方法であり、その根拠も判明せず、かつ、前記の如く土地台帳付属地図について何らの訂正の手続がとられずに放置され、右地図についてだけ右の如き異常な消し方がなされるのは手続上到底考えられないところであり、これらのことを総合して判断すれば、右の消除は何人が勝手に行なつたのではないかと推測されるのである。従つて、右の地図の実線が右の如き異常な方法で消除されていることを根拠に、右地図上本件土地が六百八十七番の土地の一部に該当するものと認めることはできない、又三浦市役所備付けの他の地図は右地図よりも新しく、右訂正された地図の記載を踏襲して右の実線を消除したものとして作成されたものと推認されるので右地図を根拠として本件土地が六百八十七番の土地の一部に該当するものとは認められない。更に<証拠省略>は公図の写であるが、右は何人が何時、いかなる公図を写したものであるか明らかでないから、右地図に前記実線の記載がないからといつて、本件土地が六百八十七番の土地の一部に該当するものと認めることはできない。

次に、<証拠省略>を総合すれば、本件土地周辺の土地の実測面積と公簿面積を比較すると別表記載のとおりで、いずれも公簿面積が実測面積より大きく、本件土地が六百八十七番の土地の一部であるとすると実測面積が公簿面積より著しく大きくなることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上認定の公図原本の記載及び本件土地周辺の公簿面積と実測面積との関係を総合して判断すれば、本件土地は六百八十七番の土地の一部に該当せず、原告所有の無番地の土地に該当するものと認めるのを相当とする。(六百八十六番の土地、六百八十七番の土地が同一日時、同一登記原因をもつて所有権移転がなされたからといつて、右事実をもつて直ちに、本件土地が無番地の土地ではなく、六百八十七番の土地の一部であると認めることはできない。)

そこで、被告ら主張の取得時効の抗弁につき判断する。

<証拠省略>を総合すれば、六百八十六番及び六百八十七番の土地はいずれも訴外加藤泰次郎の所有であつたが同訴外人は訴外金子紋四郎に対し、右各土地を売渡したが、所有権移転登記手続はしなかつたこと、その後右各土地につき所有権移転登記手続をするに際し、訴外金子紋四郎の相続人訴外金子鶴吉は、訴外加藤泰次郎の相続人訴外加藤忠亮から右六百八十七番の土地につき、現地において、東側は市道と、北側は訴外最福寺所有地と、西側は訴外飯島久兵衛所有地と、南側は官有地とそれぞれ接している旨指示されたこと、そして、本件土地は右六百八十七番の土地の一部であるとして大正九年七月二十二日右土地につき所有権移転登記を受け、本件土地は右土地の一部として引渡を受けたこと、しかして、右境界に柵、塀等の標識は設置しなかつたが、爾来自己の所有としてその一部を耕したり茅を刈り取る等して死亡するまでこれを占有して来たこと、部落民らも、本件土地を訴外金子鶴吉の所有と信じ、その一部を借り受けて網干場や網小屋を設置し、又本件土地上の茅を刈るときは事前或は事後に右訴外人の承諾を受け、謝礼として酒一升等を届けていたことが認められる。証人石橋七三郎の証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。ところで、占有とは物に対する事実上の支配をいい、社会観念上、ある人が、物について事実上の支配をしていると認められる客観的関係が存することを要し、原告主張の如く、柵、塀その他の標識を設置するとか、または全面的に田畑として耕作する等その範囲が明確である場合に社会観念上事実上の支配関係があるということは勿論であるが、そのような場合のみに限らず、前記認定の如き事情が存する場合においても、なお、本件土地が社会観念上、訴外金子鶴吉の事実上の支配下にあつたものというを妨げないものと解する。そして、前記認定の事実によれば、訴外金子鶴吉は大正九年七月二十二日以来本件土地を所有の意思をもつて平穏、公然に占有して来たものというべきであるが、当初認定のとおり本件土地は原告の所有であり、訴外金子鶴吉が六百八十七番の土地の登記簿、更には登記所備付けの公図を閲覧検討するときは、本件土地が六百八十七番に属するか否か疑念を抱いたであろうことは容易に推認されるから、同訴外人が右登記簿、公図を閲覧検討しなかつたことは(右訴外人が登記簿、公図を閲覧検討したことはこれを認める証拠がない。)本件土地が六百八十七番に属すると信じたことに過失があつたものというべく、従つて、同訴外人は大正九年七月二十二日から十年を経過した昭和五年七月二十一日時効により本件土地の所有権を取得したことにはならないけれども、右大正九年七月二十二日から二十年を経過した昭和十五年七月二十一日右訴外人は時効により本件土地の所有権を取得したものといわなければならない。そして弁論の全趣旨によれば、右訴外人は昭和四十四年二月四日死亡し、被告らが相続したことが明らかであるから、本件土地は被告らの所有に属するものである。

以上の次第で、原告が本件土地の所有権を有することの確認を求める本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 青山惟通)

目録

三浦市三崎町城ケ島字西山六百八十六番地先

雑種地 一九二五・二二平方米(五八二坪三合七勺)

第三管区海上保安本部城ケ島航路標識所敷地の南端に存する境界石のうち、No.23と表示された境界石を0点とし、No.22と表示された境界石を(イ)点とし、0点から(イ)点への直線に対し(イ)点を基点として左回り一一六度一〇分の方向へ直線で一一・二〇米隔てたところを回(ロ)点とし、(イ)点から何(ロ)点への直線に対して(ロ)点を基点として左回り二七八度三五分の方向へ直線で一〇・八五米隔てたところを(ハ)点とし、(ロ)点から(ハ)点への直線に対して(ハ)点を基点として左回り八九度一九分の方向へ直線で五〇・二五米隔てたところを(ニ)点とし、(ハ)点から(ニ)点への直線に対して(ニ)点を基点として左回り一〇一度一五分の方向へ直線で一五・九五米隔てたところを(ホ)点とし、(ニ)点から(ホ)点への直線に対して(ホ)点を基点として左回り一五五度三九分二〇秒の方向へ直線で一三・九九米隔てたところを(ヘ)点とし、(ホ)点から(ヘ)点への直線に対して(ヘ)点を基点として左回り一九七度四九分四〇秒の方向へ直線で一四・一九米隔てたところを(ト)点とし、(ヘ)点から(ト)点への直線に対して(ト)点を基点として左回り一二四度四一分の方向へ直線で一七・八一米隔てたところを(チ)点とし、(ト)点から(チ)点への直線に対して(チ)点を基点として左回り一二二度三六分の方向へ直線で六・九二米隔てたところを(リ)点とし、(チ)点から(リ)点への直線に対して(リ)点を基点として左回り一四一度二八分の方向へ直線で九・六三米隔てたところを(ヌ)点とし、(リ)点から(ヌ)点への直線に対して(ヌ)点を基点として左回り一八七度三二分の方向へ直線で三五・八一米隔てたところを(ル)点とし、(ヌ)点から(ル)点への直線に対して(ル)点を基点として左回り二〇三度五〇分の方向へ直線で一五・六五米隔てたところを(ヲ)点とし、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)、(ヌ)、(ル)、(ヲ)、(イ)の各点を順次に結んだ線内の土地から(ヌ)点から(ル)点への直線に対して(ル)点を基点として左回り九〇度三六分の方向へ直線で七・六五米隔てたところを(ワ)点とし、(ル)点から(ワ)点への直線に対して(ワ)点を基点として左回り一六〇度〇一分の方向へ直線で一三・八一米隔てたところを(カ)点とし、(ワ)点から(カ)点への直線に対して(カ)点を基点として左回り七四度五四分の方向へ直線で一六・二六米隔てたところを(ヨ)点とし、(カ)点から(ヨ)点への直線に対して(カ)点を基点として左回り一二一度五六分の方向へ直線で七・四八米隔てたところを(タ)点とし、(ワ)、(カ)、(カ)、(タ)、(ワ)の各点を順次に結んだ線内の土地を控除した土地。

(別紙実測図赤着色部分)

以上

(別紙)三浦市三崎町城ヶ島字西山六八六番地地先実測図<省略>

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